『響け!ユーフォニアム3』の感想

響け!ユーフォニアム

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京都アニメーション制作のテレビアニメ『響け!ユーフォニアム』の3期が放送され、原作本編の全てが映像化されたので感想をば。正直、例の事件で3期の制作は絶望的だと思っていたので、最後まで描き切ってくれた京都アニメーションには圧倒的感謝。

耽美な背景や丁寧な動きの描写で2000年代から一線を画していた京アニだが、こと本作においては金管楽器の演奏シーンの精緻さが話題になっていたように思う。光が金管楽器の表面で反射する様子をここまで正確に描いた作品は、今後出てこない気がする。

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テレビ版の時点でだいぶ頭のおかしい作画をしているが、劇場版でさらに修正を加えるこだわり。そんな背景も相まって、音楽を扱ったテレビアニメの中でも本作は群を抜いて好きな作品だった。特に1期の9話は鮮烈な衝撃を受けて、たまに作業用BGMにしてるぐらいお気に入りの話だった。

というわけで3期の感想。まずOP。

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この映像を目にできていることがにわかには信じられない感じが今でもある。劇場でアンサンブルコンテスト編を見た時にも感じたが、京アニのユーフォが帰ってきたんだなぁと思う。そして、ユーフォの主題歌はやっぱりTRUEじゃないと務まらない。メロディや歌詞という点ではアンサンブル編の主題歌が一番好きだけど、突き抜けるような高音はどの主題歌でも無二の魅力があると思う。

映像も安定の京アニクオリティで実家のような安心感がある。個人的には、卒業した先輩たちの姿を映したカットがちらほら入るのが良いなと感じた。目の前にはもう同期と後輩しかいないけれど、自分がその背中を見てきた先輩たちの姿の残滓は校舎のそこかしこに残っている、みたいな感じ。

そして本編。

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3年生編ということで新たな登場人物が増え、全体を通して賑やかなシーンが多かったように思う (少なくとも前半は。。)。個人的には、特に久美子と麗奈の会話がこれまでの作品よりもフランクに感じられたのが面白かった。なんとなく『リコリス・リコイル』のちさたきペアの会話を思い出す感じ。麗奈とたきなはどちらも安西さんが声を当てているので、当然と言えば当然かもしれないが、二人の関係性の変化が見て取れるようで良い。そして、これまでとは違って演奏や人間関係だけでなく卒業後の進路という新たなトピックも扱われ、最終章にふさわしい映像が見られたと思う。

中でも一番良かったと感じたのは、『音楽で勝負している』という北宇治吹奏楽部のスタンスが、これまで以上に明確に描かれていることだった。純粋な演奏能力の高さのみに基づいてコンクールの出場メンバーが選ばれ、その中でも抜けて実力のある部員がソリストに抜擢される。シンプルで介入の余地がなく、ある意味残酷だけどとても素直な選び方だと思う。

『音で決めるべきだ』という実力主義の空気が醸成されたのは、滝が顧問を務め始めた時期、つまりユーフォ1期の一年生編からで、麗奈と香織がトランペットのソリを勝ち取るために一対一のオーディションを行ったり、久美子が「上手くなりたい上手くなりたい」と泣きながら橋の上を駆けるシーンは鮮烈に記憶に残っている。何よりも、9話で麗奈と久美子が大吉山で言葉を交わすシーンは、今見ても屈指の名シーンだと思う (こういう素材が公式から公開されているの嬉しい)。

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その一方、2期からは人間関係にフォーカスしたストーリーが多くなった。久美子があすかに部に残るよう引き止めたり、久石奏を初めとする後輩たちの悩みを解消していったり。もちろんその光景を見ているのも楽しかったのだけど、音楽的な側面からの深堀がやや削られてしまっているという印象も持っていた。

しかし、3期ではそのような人間関係のトピックを引き続き描きつつも、年齢や立場に関係なく音の良し悪しで決めるという実力主義の世界を強く感じさせるシーンが多かった。特に、ダークホース的な立ち位置で新キャラクターの黒江真由が登場し、久美子とソリの権利を巡る緊迫した展開が続いたのは印象深かった。

ただ、そのような鍛錬の果てに久美子が行きついた答えが、音楽の道に進むという選択肢ではなかったのが意外だった。それに関連して、最終回直前に京アニからPVが公開されていたので載せてみる。

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冒頭シーンの久美子の語りは、11話のAパート最後のシーンからの抜粋になっている。「上手くなりたい。そう思ってずっと吹いてきた」「麗奈みたいに悔し涙を流せるくらいまで打ち込んでみよう。そう思って吹いてきた」「麗奈は、今でも少しも変わらず、あの時のままだ」「何一つぶれることなく、真っすぐなあの時のままだ」「でも、私は……」

"特別"になるため、ひたすら上を目指して突き進む麗奈に対して、その横に立つのに相応しい奏者になるために、久美子もまたユーフォニアムを吹き続けてきたわけで、なんとなく二人はこの先も上を目指し続けるんだろうと思っていた。けれど、進路という名の岐路に立たされたとき、それが本当に自分が選ぶべき道なのかという迷いが久美子の中に生じ、その様子が事細かに描写されていたのが、これまでとは違った側面からの深堀だったと思う。

本編を見返してみると、久美子の中で「麗奈みたいに特別になりたい」という意識が芽生えたのは、1年生のあがた祭りで麗奈に言われた言葉がきっかけだったのだとわかる。そして同じく1年目、トランペットのソリストを決めるオーディションで麗奈のソロを聞いて、音楽との向き合い方が一変した様子が描かれている。1期の12話でも「私、上手くなりたい。麗奈みたいに、特別になりたい」と口にしている。

でも、実際に3年生になって進路の選択を迫られたとき、その心境に変化が生じたことに結構衝撃を受けた。音大も選択肢としてはあるけど、なんとなくモヤモヤする感じ。このあたりの久美子の気持ちは明確にはセリフにされていないけど、音楽は好きでも、じゃあこのまま音大に進んで音楽を続けるの?プロの奏者を目指すの?と考えたとき、「自分って本当にそっち側なの?」という逡巡が生まれたんだろうなと個人的には解釈した。そして、「そっち側の人間」であるみぞれに「音大に進んだ姿は想像できない」と伝えられて、「ああ、自分はその道に進むべきじゃないな」という結論に至れたのだと思う。麗奈とは違って、自分は特別を目指し続けられる人間ではないから、普通の大学に進学して教師になろう。そして、その演奏に対するある種の油断みたいなものが、最後のオーディションで真由の演奏に僅かに及ばない音になって表れた、みたいな。4話で久美子が「気持ちは演奏に出るよ」と求に言っていたのが、自分に返ってきたのだと思う。

それにしても、最後のオーディション前の二人の会話は素敵だったなと思う。

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ユーフォニアムが床に落ちる描写が音楽を辞めた同級生のことを表しているのが何とも言えない辛さを感じる。ここで金管楽器ではなく弦楽器の低音をメインに奏でられる背景楽曲を持ってきているのもセンスが良すぎる。

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こうして振り返ってみると、久美子ってめちゃくちゃ損な性格をしているなと思う。この12, 13話あたりは映像から醸し出される緊張感と臨場感が凄まじく、見ているだけで体が強張るような展開が続いたが、感想を正確に言語化できる気があまりしないのでスキップ。でも、本作で一番見どころがあったエピソードはここだったように思う。

そして、最終回放送前にツイッター黄前久美子役を務める黒沢ともよさんの収録インタビューが公開されているのを見つけた。

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これを読むと、黒沢ともよさんは淡白というか、結構あっさりした感想を抱いていることがわかる。麗奈と久美子は同じ道には進まないし、その関係も今までとは変わっていくだろう、みたいな。でも実際のところこれはその通りな気もする。

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久美子はこう言っているけど、麗奈はアメリカの音大に進学してプロの奏者を目指し、久美子は国内の大学に進学してやがて北宇治高校の教師になる。場所も職業も違えば、二人の関係も徐々に変化していって、高校の頃のようにはいられないのだと思う。でもなんとなく、久美子はまた麗奈の横に並ぶことを選んでくれるんじゃないかと思う。プロの奏者として共に演奏するということでなくとも、音楽で再び繋がる日々に戻って来てくれるんじゃないかと思う。

そして、最終話の全国大会。

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1年生、2年生と辛酸を嘗め続け、色々な想いを背負って臨んだ全国大会で金賞を取ったことの重みが詰まった映像が喜びと共に表現されていて素敵。全てをかけて練習に臨んできたからこそ、これだけ必死に祈ったり、その結果に歓喜できるのだと思う。そして、金賞受賞を知った瞬間、久美子の脳裏に真っ先に浮かぶのが自分の経験してきた苦労でも金賞受賞への喜びではなく、過去の先輩たちの姿というのが3年間の全てを物語っているなと感じる。

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そして最後を特殊EDで締める演出。本当に良かった。

まとめ

なんか文字ばっかりになってしまったが、ユーフォの原作本編が全て映像化されたことが本当に嬉しかった。音楽活動を扱ったアニメ作品はたくさんあるが、これだけ真摯に音楽と向き合うことを描いた作品はなかなかないと思う。

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つい先日発表された情報によると、京アニは次にメイドラゴンの劇場版とCITYのアニメ化を計画しているらしい。しかし、いつの日かユーフォ3期も1期や2期のように劇場化されて映画館で見られる日が来ると良いと思う。